このアルバムの製作が始まったのは2020年の4月頃で、ちょうどコロナウイルスが国内でも感染拡大し始め1回目の緊急事態宣言が出た頃でした。
僕とCHIYORIは夫婦揃って職場が休みになってしまい、先行きが見えない状況になってしまいました。
僕は知的障害者さんの外出に付き添うという介護職の現場で働いているので外出や他者との接触が制限されている状況では当然仕事は少なくなってしまいました。
僕たちがよく遊びに行っていたクラブやライブハウスもまともに営業出来ない状況に追い込まていく一方、SNSを見れば首相の「うちで踊ろう」動画や「アベノマスク」が暗澹たる気分と怒りを加速させていました。
その一方で久しぶりに仕事やアルバイトに追われなくなった開放感のようなものがあったのも事実で、暇を持て余したチヨリと弁当を持って、人出が少なくなった西武線沿線の近所を散歩しながらあれやこれやを話し合っていました。
そんな中、久々に共作をしてみようかという話になりお互いが敬愛するMemphis RapやAmbientの影響を落とし込んだ曲作りを始めました。
「すごい」「DANCING」「AI」はこの時期に製作されたものです。
「DANCING」の歌詞にある「大丈夫なにかと不自由だけどあいつもいってる『絶対いける』」という部分を聞くとその時期の不安な気分を思い出すと同時に、とてもCHIYORIらしい前向きでパワフルな歌詞で良いな〜と思います。
(『絶対いける』はfeatの小林勝行さんの代表曲。)
90sのMemphis Rapの中には相当に劣悪な録音環境で作られたであろうLo-Fiで荒削りな音像と、近所の不良のお兄ちゃんお姉ちゃんが初めてラップ録音してみましたみたいな初期衝動のエネルギーに満ちた曲がたくさんあり、なんとなくこの無茶苦茶な世の中の状況にマッチして励ましてくれるような感じもあったのを覚えています。
90年代の録音なのに、これは1950年代くらいに録音された音源なのかなというくらいLoFiなのもあって、いつの時代の音楽なのか分からなくなるような不思議な感覚も自分がMemphis Rapに惹きつけられた理由の一つでした。
ここら辺の感覚はPPUやMusic From Memoryなどの発掘音源を聴いている感じにも通づるものがあってNew Age Ambientとも自分の中で繋がっています。
このアルバムの製作に影響を与えた曲を何曲か紹介したいと思います。
Buckshot, Criminal Manne & Primo - Ridin Steamer
(Born 2 Loose) (1994)
LoFiな音、そしてビット数の荒いyoutubeのサムネイル画像の写真、まさに90sMemphis Rapの醍醐味!という感じなのですが、
ループしているウワモノが妙にアンビエントで催眠的なムードを醸し出している不思議な曲です。
Koopsta Knicca - Crucifix ft. DJ Paul
Art Of Noise「Moments In Love」のサンプリング x Memphis Rapという、そんな最高なことありますかという組み合わせ。
Mystic High「Nature」にはこの曲へのオマージュも入っています。
This Mortal Coil - Song To The Siren
今回CHIYORIの歌との共作ということでCocteau TwinsとMemphis Rapが融合したようなイメージの音楽があったら最高なんじゃないかとか考えていました。
そう考えると改めてSpace Ghost Purrpの”Mysterious Phonk”が4ADからリリースされてたのが興味深いです。
DJ Assault - Jungle Love
今からもう20年以上も前、DJ Assauultの「Belle Isle Tech」というMIXを聴いて衝撃を受けたことは今でも覚えています。普段は意見が割れたりもするHiphopを好きな友人もTechnoを好きな友人も一緒にその音楽のカッコ良さを共有し盛り上がりました。
DetroitのGhetto TechもMemphis Rapと通づるラフな魅力があるので、そこからの影響も繋げていきたいと思い作ったのが「I'm So High」です。
結果自分が作るとつい音が柔らかめになってしまうし、グルーヴ感も違うのでGhetto Techとは別物になってしまったのですが、何かをやろうとしてうまくできなくて結果別の何かになってしまうみたいなことが好きなので、この曲もそうなっていればいいなと思いながら音楽を続けてます笑。
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